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唇同士が触れて、恭介さんの舌が緩んだ隙間をゆっくりなぞる。
「甘いな」
「蜂蜜のせいです」
再び唇が重なって、すぐに舌が絡み合った。
比較的早急だったような。私の唇が緩んでいたからかもしれない。
いつもなら勿体ぶるように触れては離れを繰り返しながら深まっていくキスが、今日は違う。こんな風に始めから舌を絡ませ合って、まるでお互いを欲しているようなキスをしたら、やっぱり勘違いしそうになる。
頬を固定していたはずの恭介さんの手はいつの間にか私の肩に置かれていて、手のひらの熱さが伝わってくる。
もっと、触れたくなった。
だから思わず手を持ち上げて、その腕に触れてしまった。
シャツの上からでもわかる筋肉の硬さに煽られて、体が熱くなる。
なんとなく、これ以上したらもう、ただの上司と部下には戻れない気がした。
慌てて必死に舌を引っ込めて、恭介さんの腕に触れた手に力を入れ押し返す。
逃れようという意思が伝わったのか、キスが止んだ。
抵抗したのは初めてだ。
「どうした、嫌だったか?」
「嫌じゃない……だから、やだ」
「どっちなんだ」
「だって…………」
目の奥が熱くなって、じわっと涙が浮かんですぐ零れた。
「ん?」
私が泣いたって、恭介さんはちっとも動じていない。それどころか僅かな微笑みなんか見せながら目元を拭ってくる。
やっぱり私の片思いなんだ。恭介さんの心が自分に向けられていないのに、これ以上こんな関係を続けてこんなキスを受け入れていたら、私の心が麻痺してしまう。
それに耐えられるような自分じゃないと、わかってる。
だから、もう。
「今日は、ありがとうございました。恭介さん、演技が上手くて。あれなら契約のことなんて絶対バレないと思います……だから、私まで騙されそうになっちゃって、それで……」
演技なんかじゃ嫌だから、涙が出ちゃうんです。
言えないけれど、そう思った。
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