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「すみません、私……」
「謝らないでくれ。ひなたは何も悪くない。はっきり伝えない俺が悪かった。ただ俺もこういう事は得意じゃないんだ。だからその……ああ、こんなの学生の時以来だ」
そう言って、サイドに流れる前髪をくしゃりと崩し、搔き上げる。それでゆっくりと、深い呼吸をした。
やっぱりまだわからない。
恭介さんが一体、何を言いたいのか。
「ひなた……」
どことなく緊張した面持ちの恭介さんを、不安な気持ちで見つめた。
「はい」
「お前が好きだ」
「……ぇ……えっ? うそっ?」
いやいやいや、そんなバカな。
「嘘なんか言ってない、ひなたのことが好きだ。部下にふざけてこんな事言ってどうする。もちろん演技でもない。俺を信じられないか?」
「や、えっと……どこが?」
自分で言っておきながらなかなかに心を抉る質問だった。
でも恭介さんはその質問に短く笑って、迷いなく答えを教えてくれた。
「ふっ。それこそさっきの店で言った通りだよ。どこもかしこも可愛くてたまらないから言いようがない。つまり、全部好きだ」
本気ですか課長……。
嬉しいと言うよりびっくり。しかも結構恥ずかしいことをスラスラと言われた気が。
「……だって、何もできないですよ? 私」
言われた言葉が俄かには信じられず、心を抉りつつ苦笑いで返す。
「特に料理はな」
「はぃぃ」
ブスッとした声になったのは、恭介さんが即答するから。それにほんの一瞬だけど、ニヤッと笑われたように見えたから。
そう思ってるってことじゃないですか!
事実ですがね……。
「俺は料理も家事も嫌いじゃないし、苦でもないから心配するな。それに俺の料理を、美味しいって食べてくれるじゃないか。言葉にされるっていうのは嬉しいもんだよ。しかも本当に旨そうに食べるからな、ひなたは」
そう言って笑ってる。
その笑顔に馬鹿にするようなところは少しもなくて、本気でそう思ってくれるのだとわかるからなんだか複雑だった。
一般的な女の人の役割は、求められていないんだろうか。
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