あなたの思い、私の思い

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 大切なことほど、まともに顔なんか見て言うのは恥ずかしくなるらしい。  酔った勢いで結婚を迫ったあの日の私は、そんなものお構いなしで好き勝手言い放ったというのに。  ぶら下がったネクタイの下の方へと、つい視線を逃がしてしまう自分をどうにか鼓舞し、漸く吸い込んだ息を静かに吐き出す。  もう、逃げてる場合じゃない。  それに、私の心の進行方向は変わらない。きっとこれからも、恭介さん以外へ向くはずなんかない。 「言ったら……戻れませんよ?」  熱情の篭る恭介さんの瞳を、同じ熱量で見つめながら言った。 「望むところだ。戻れないならとことん進めばいいよ、二人で」  最終確認だったのにそんなことを言って、僅かに口角を引き上げて見せる。そうして優しく掴んだ私の手首を引き寄せるから、体が前のめりになった。  そのせいでお互いの距離がぐっと狭まって、さっきよりずっと近くで目が合う。
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