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「すきですっ」
その一言が合図になった。
重なり合った唇の間で、すぐに互いの舌が絡み合う。
こんなキス、好きな人とじゃなきゃできるはずもなかったんだと、今頃になって気がついた。
もつれるように舌を絡ませ合って、お互い離れようとしないからだんだん苦しくなってくる。喉から漏れるくぐもった声も、心の内を伝えてしまっているだろうし。
今しているのは、舐め溶かされるかと思ったあのキスとも、触れるだけのものとも違う。
抑えることなんて出来なくなった情欲を、これでもかとぶつけ合うようなキスだ。
「ひなた、好きだよ」
私も、と返す前に唇は塞がれてしまって、ただ与えられる口づけを必死に受け止めるので精一杯だった。
それなのに恭介さんは、何度も同じことを囁いた。
「ひなた、好きだよ」と。
どうして私だけ一言も返す余地がないのか謎だったけれど、気付けばいつものソファーに背中が埋まるくらい骨抜きにされていて、今はもう息も絶え絶えである。
そうさせたのは恭介さんなのに、その本人は、さっき崩してしまった前髪以外ちっとも乱れていない。
余裕、なのかな。
恭介さんの首に両腕で絡みついた格好のまま、目の前の整った顔をぼんやり眺めて思った。
こんな人の相手、できるんだろうか。多少の経験はあるけれど、年上の人と付き合ったことはなかったし、そもそもこんな激しいキスをされたのは初めてで。
内心不安に駆られているところで、不意に背中とソファーの間に手が差し込まれ、埋まっていたのを剥がされる。
ソファーから立たせようとしたのだろうけれど、さっきのキスで腰が抜けてしまったようで力が入らなくて、慌てて恭介さんにしがみついた。
「おっと」
支えてもらいなんとか倒れずに済んだが、背中に回った硬い腕がそのまま私を抱き上げてしまったから慌てずにいられない。
「やっ、ちょっと、重いですからっ!」
「今更だ」
「え?」
「酔って意識を失った女を運ぶのよりよっぽど軽いよ」
「うそっ……」
晒しただろう醜態を想像して、おとなしくするしかなくなった。
大好きなソファーが遠ざかって行く。飲みかけの紅茶も、床に置いたバッグも。
行き先はベッドなんだろう、どう考えても。
いろんな意味で恥ずかしくなってきて、縋り付いた恭介さんの肩口に顔を埋める他に、できることは何もなくなった。
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