マリッジピンク

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マリッジピンク

 予想通りベッドに降ろされ、恭介さんの両手に左右を囲まれて見下ろされた状態での第一声。 「その節は色々とご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」 「シャンパンがぶ飲みして、酔って玄関で寝る女を運ぶのは骨が折れたよ。それでいて手も出せないとは」 「あはは、いい執事……」  返す言葉もございません。申し訳ありません、課長。  さっきの情熱的な空気は、このベッドの上にはない。  ついでにと、一つ大事なことを思い出したから訊いてみる。 「あの、そう言えば明日、大事な用があるって」 「ああ、嘘だ」 「へ?」 「早く二人きりになりたかったから、そう言った」  肘を折って覆い被さってくる。  恭介さんの指先が耳の辺りの髪を掻き分けてくるから、擽ったい。  恥ずかしいな。そういうこと、平気な顔で言う人だったんだ。  その気恥ずかしさを誤魔化すように、視線を外して呟いた。 「それ、明日関係ないし」 「さあ、それはどうかな」  濡れた音とともに唇を啄まれた。 「一応訊くが、このまま抱いても?」 「そんなの訊かないでください」  恥ずかしくてそう言った私に、恭介さんは反論する。 「そうはいかない。互いの同意あってこその行為だ。流石に、嫌がられていないのはわかるが」  悪戯っぽい笑みで私を見つめるこの人が、こんな時ですら私の気持ちを尊重してくれることに胸が熱くなった。  好きだから抱きたい。  好きだから抱かれたい。  二人の思いが一致している今、問題なんて何もない。  だから腕を、恭介さんの首に回した。 「好きです、恭介さん。抱いて?」  もうこれ以上ないほど顔が熱くなったけど、私に何の迷いもないのだとわかってもらうにはこう言うしかなくて。 「……いきなり煽るのか?」 「そうじゃないけど、そう、かな?」
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