マリッジピンク

13/15

5221人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
 顔が熱くなって、それをじっと見ていたのか、恭介さんが相好を崩す。  静かに立ち上がると私の後ろにやって来て、椅子の背凭れごと両腕で私を抱きしめた。  胸の前で交差する両腕に手を添え、後ろにある恭介さんのお腹にこてんと頭を預ける。  「恭介さん」  きっとあの夜、恭介さんに声をかけたのは、運命とか第六感とか、そういうものだったんだと思う。 「結婚、してくれるのか?」  答えなんかわかってて訊いてくる。  それが嬉しい。 「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」 「こちらこそよろしく……ひなた、愛してる」  横から覗き込むような前屈みの体勢で囁く声が甘い。  どうしたって弧を描いてしまう私の唇。そこにキスが欲しいから、笑った顔のままで、覆い被さる恭介さんを振り仰ぐ。 「恭介さん、大好き」  唇は優しく重なった。  数秒間触れ合わせて、ゆっくりと離れて。そうして至近距離で見つめ合いながら笑った。  でもやっぱり、思いっきりぎゅうっと抱きしめたくなって、椅子から立ち上がろうと巻きついた腕を剥がした。  急に動いたからだろう。立ち上がって向き合った私を、戸惑いの眼差しで見ている。  だけど私が笑えば恭介さんも笑って、両腕が左右に開かれた。  吸い寄せられるように胸の前に立ち、大きな背中を両腕でぎゅううっ、と抱きしめて擦りつく。 「恭介さん、好き。大好き。私、家事も頑張ります!」 「ははっ、無理しない程度でいいよ。一生は長いから」 「一生……」  そうか。結婚するって、そういうことか。 「契約は解消したんだ。だから、ひなたの一生は俺がもらうんだぞ? お前こそわかってるのか?」
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5221人が本棚に入れています
本棚に追加