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顔が熱くなって、それをじっと見ていたのか、恭介さんが相好を崩す。
静かに立ち上がると私の後ろにやって来て、椅子の背凭れごと両腕で私を抱きしめた。
胸の前で交差する両腕に手を添え、後ろにある恭介さんのお腹にこてんと頭を預ける。
「恭介さん」
きっとあの夜、恭介さんに声をかけたのは、運命とか第六感とか、そういうものだったんだと思う。
「結婚、してくれるのか?」
答えなんかわかってて訊いてくる。
それが嬉しい。
「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく……ひなた、愛してる」
横から覗き込むような前屈みの体勢で囁く声が甘い。
どうしたって弧を描いてしまう私の唇。そこにキスが欲しいから、笑った顔のままで、覆い被さる恭介さんを振り仰ぐ。
「恭介さん、大好き」
唇は優しく重なった。
数秒間触れ合わせて、ゆっくりと離れて。そうして至近距離で見つめ合いながら笑った。
でもやっぱり、思いっきりぎゅうっと抱きしめたくなって、椅子から立ち上がろうと巻きついた腕を剥がした。
急に動いたからだろう。立ち上がって向き合った私を、戸惑いの眼差しで見ている。
だけど私が笑えば恭介さんも笑って、両腕が左右に開かれた。
吸い寄せられるように胸の前に立ち、大きな背中を両腕でぎゅううっ、と抱きしめて擦りつく。
「恭介さん、好き。大好き。私、家事も頑張ります!」
「ははっ、無理しない程度でいいよ。一生は長いから」
「一生……」
そうか。結婚するって、そういうことか。
「契約は解消したんだ。だから、ひなたの一生は俺がもらうんだぞ? お前こそわかってるのか?」
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