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抱きしめ合った腕の中から見上げると、双眸を細めて優しい顔をする。
ああ、なんて幸せなんだろう、と思わずにいられない。
売れ残って値引きシールを貼られた黒いバナナになる寸前だったのに、と思ったら笑いが込み上げた。
「ぷっ! くははっ」
「笑うところか?」
「違うけどっ、だって私っ、黒いバナナって言われてたのにって」
笑いをこらえながら伝えれば、真顔でこう返された。
「黒くなったらバナナジュースにでもすれば美味いんじゃないか? 食べ方の問題だ」
「あ、そうかも!」
「ひなたの食べ方は俺以外誰にも教えるなよ?」
耳を撫でるように髪を掻き上げられ、頭を固定される。
「食べ物じゃなっ、んっ!」
パクッと唇に食いつかれ、柔いところで食まれるとダメだ。身体中に施されたキスの感触が蘇って、スイッチが入ってしまいそうで。
でも朝だし、さっきしたし、片付けとか洗濯とか、色々あるし!
焦ったが、恭介さんにそんな気はなかったようで、特に深まりもせずキスは止んだ。
「さあ、今日は忙しいぞ? さっさとやることを片付けて、出かける準備をしよう」
「え? 今日って、本当に何か大事な用でもあったんですか?」
「ああ。これもいいけど、もっといいのを買おう」
恭介さんに左手を持ち上げられ、薬指を撫でられる。
通販で買った指輪でもそこそこ気に入ってはいるのだが、そんなことを言われたら喜ばずにいられない。
「え、もったいないですよぉ、そんな」
だから口ではそう言いつつ、恭介さんの提案についニヤニヤしてしまう。
「俺の奥さんを一生守ってもらう大事な指輪だから、もったいなくはないよ」
すっぱり言い切られたら、益々嬉しい。
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