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「それに、新居も探さないとな」
「え? ここで良くないですか?」
「お前、荷物多いだろう」
「な、なんでわかったの?」
そう訊ねても恭介さんは笑うだけだ。
「だったらもう少し広い部屋じゃないと。それに子供ができたら、ここじゃどうせ手狭だ。子供は……欲しいか?」
ちょっぴり不安そうに、恭介さんは訊ねた。
恭介さんと私の子供。
どうしよう、全く考えてはいなかったけれど、絶対可愛いと思う。
私大丈夫かな? ちゃんとお母さんできるかな?
「まあ、それは無理にとは言わないが。そう上手くいくものでもないかもしれないし」
思考の中に入り込んでしまい返答が遅れたのを賛成しかねると解釈したのか、恭介さんが慌てて濁そうとしたから、焦って大きな声で呼んでしまった。
「恭介さん!」
「はい」
「私、子供欲しいです、恭介さんの子。だからやっぱり、いろいろ頑張ります!」
決意を込めて恭介さんを見つめた。
「ああ、そうか……」
恭介さんの表情が曇ったような。
「え? 恭介さん、子供、欲しいんですよね?」
首を傾げると、ピクリと眉が動いた。
「そりゃ欲しいさ。ひなたと俺の子なら、絶対可愛いと思うよ」
「よかった。じゃあ、なんでそんな顔したの?」
「どんな顔だった?」
「ちょっと、困ったなあって感じの顔?」
「……ああ。確かに困った」
お互い子供が欲しいと同じ思いでいるのに、何を困ることがあるのだろう。
「どうして?」
「男にしかわからないんじゃないか? あなたの子供が欲しい、なんて言われた時の気持ちは」
「えっとそれは……迷惑では?」
「ないな。嬉しすぎてどうにかなりそうだよ。それに、誘われたのかと思った」
腰を抱く手にぐっと力が入る。
お腹が、恭介さんの下腹部と密着した。
「わ、わ、倒れちゃう!」
体勢を保とうと恭介さんの背にしがみつく。するとそのまま数センチ体が浮いて、おたおたしている間に近くの壁に押し付けられた。
「ひなた……」
おでこをくっつけて熱っぽく見つめられたら、その熱が移ったように感じた。
だからキスをした。大好きな、旦那様に。
「朝から夫を誘惑するのか?」
「恭介さんだって、朝から妻を誘惑しましたよ?」
「ああ、そうだった。まあ、それは夫の権利だから」
二人で笑い合って、そっと唇を触れ合わせた。それでまた笑って、見つめ合って、好きと囁いたらキスをして。
そうやって、上司と部下だった私たちは、本当の夫と妻になることを誓い合った。
私は今、とっても幸せだ。
きっとこれが、マリッジピンクに違いない。
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