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そろそろと開けたドアの隙間から向こうを覗くと、冷蔵庫の前にいた恭介さんとバッチリ目が合った。
家事が楽なようにと選んだ新居は水周りが家の中央に集まっていて、ランドリールームの向かいはキッチンになっている。他の部屋へ逃げるにしても、恭介さんの前を通るしかないわけで。
いたたまれない。一度見せているとは言え、やっぱりこの格好で出て行くのは恥ずかしすぎる気が。
「あの、私のパジャマは?」
体の半分ほどの幅から顔だけを覗かせて訊ねると、パジャマ隠しの犯人は狼狽えるでもなくサラリと呟く。
「それがパジャマじゃないのか?」
堪えているようだが、目はめちゃくちゃ笑っている。それで手にしたボトルを傾ける姿は、とても職場で見る真面目な課長の姿とは程遠い。
「もう……イジワルですよ」
「そんなことない。尽くすタイプだから」
それで差し出されたのは水。たった今、恭介さんが飲んでいたものだ。
「パジャマ隠すのは、尽くすのと違うじゃないですか」
受け取った水を飲むのに照れがないかと言われればそんなことはなかったけれど、躊躇いはなかった。
その水で喉を潤す。体がホカホカだから、冷たくておいしい。
水を飲んでボトルを下げると、すうっとドアが開かれ、大きな手が差し伸べられる。
「おいで」
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