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ぎゅっとしていた体を少し離して、目を合わせる。
「ひなたを……子供に取られること」
逞しい胸に頭を抱え込まれたが、堪え切れず吹き出してしまった。
「……ぷっ、くくくっ」
あまりに真剣な告白にニヤニヤが止まらない。
「笑い事じゃない。世の男たちにとっては結構切実な問題らしいぞ?」
「そうなんですかあ?」
「子供ができるのは嬉しいんだが、手がかかって夫に構う余裕がなくなる。それどころか自分にすら無頓着になって、少しずつすれ違って結果離婚、なんて夫婦は多いらしいぞ?」
恭介さんの話を聞いて、胸元から顔を上げた。
「それやだ……」
多分眉間に皺が寄って、そんな私を見て、恭介さんは嬉しそうに微笑んだ。
「そうか」
「私、めちゃくちゃ頑張らなきゃですね。お母さんってすごいんだなあ」
「俺のことも忘れないでいてくれよ?」
「わかってますって。忘れるわけないし。そういう恭介さんだってモテるんだから心配だなぁ」
「俺が?」
目が大きく見開かれる。
「そうですよ。恭介さん、会社にファンがいるんですよ?」
「なんだそれ」
冗談だろ、とでも言わんばかりに笑っているが、こっちは美保から聞いて知っているのだ。
「結婚するってなって総務に書類出したとき、ちょっとした騒ぎになったらしいですよ? 入社直後から毎年誰かに告白されてたのだって知ってるんですから」
ちょっとばかり唇が尖る。
「そんなことまで……」
「ほんとなんだ……」
「……まあ、あれだ。よく知りもしない相手に好きだの嫌いだの言われたところで俺は何とも思わないし、それはこれから先も変わらない」
「じゃあ、よく知った相手に言われたらどうするんですか」
ムスッとした声にならざるを得ない。当然、表情もムスッとなるものだ。
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