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今日は晴天。そんなことすら嬉しくなる。
滑らかに走る車の中では、ラジオが小さな音量でかかっていた。
切なげなメロディーに乗せて、二人だけの、誰にも邪魔されない世界を大切に思う歌詞が印象的な歌を聞いた。
「これ、いい曲ですね」
「ああ。ちょっと物悲しい雰囲気もまた味があるよな」
「はい」
DJが曲紹介をして、その曲が私の生まれたのと同じ年に発表されたものだと知った。
「恭介さん、さっきの歌、私と同級生だって」
「ほう」
「あ、海!」
「ふっ、いきなりだな」
「だって」
「今日の海はどんなだ?」
「うーん、キラキラしてます」
外の空気はどんなだろうと、つい窓を開けた。
途端、冷たい風がすごい勢いで吹き込んで来る。
「うわっ、寒いっ!」
「当たり前だろう、天気はいいが十一月なんだから」
「そうでしたー!」
言いながら窓を閉めた。
風に当たったのは僅かな時間なのに、走行中だから勢いが凄くて髪がボサボサだ。それを手で整えて、その手を膝の上でぎゅっと握りしめた。
すると隣から伸びてきた手が、握りしめたままの拳を包み込む。
「冷たいじゃないか。コンビニで温かい飲み物でも買おうな」
「はい」
ほんの少し冷えただけなのに、それを気にかけてどうにかしようとしてくれるのが嬉しい。
こんな幸せ、初めてだ。
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