番外編

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 個包装の紙を開いてチョコレートを摘んだ。 「ひなた、にやけすぎ」 「むふふん、だって〜。はい、いきますよ? あ〜ん」  あの時同様、パカっと開いた口にそっとチョコレートを運ぶ。  やっぱりあの時と同じように指先が少しだけ唇に触れてしまって、妙にドキドキした。  口の中のものを咀嚼するところをじっと見つめていたら、それを飲み込んだ恭介さんと目が合った。  見つめ合って、お互いはにかむ。  でもよかった。恭介さんの可愛いところをまた見られたし、キュンキュン!  満足してシートベルトに手を伸ばそうとすると、今度は私がそれを止められる番だった。 「待て、ひなた、お前もだ」 「え?」 「心配ない。まだ駐車場だし、時間はたっぷりある、ほら」  大きな手を差し出してくるから、そこに一粒、チョコレートを乗せた。 「恥ずかしいです、よね」  自分から言いだして、まさか自分の番が来るとは考えなかった。 「そりゃ恥ずかしいさ。でも、いい思い出になるよ、きっと」 「ふふっ、そうですね」 「ほら、口を開けて?」 「え? あ〜んって、言ってくれないんですか?」 「……」  目を泳がせる恭介さん。  これはもしかして、言わずにやり過ごそうとしてた? 「あ、ずるいんだあ恭介さん」 「わかったわかった。じゃあ、言うぞ?」  ちょっと剥れて言えば、すぐに観念したようだ。  恥ずかしいけど、だから余計、恭介さんにも言って欲しい。  デレデレとその時を待つ。 「ひなた、あ〜ん」 「あ〜……んっ、おいひいっ」 「ほら、また食べながら喋る」  頬をつつかれて照れ笑いをして、食べ終わってまた笑いあったら、今度こそシートベルトを締めた。 「さあ、そろそろ行こうか」 「はーい。しゅっぱーつ!」
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