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「綺麗ですね、ぜーんぶ海と空。……っくしゅんっ」
高いところへ来たせいか風が強く吹いていて、さっき涼しいと思ったくらいだったのにここは正直寒い。
けどせっかく来たし……なんて肩を竦めていれば、ふぁさりと肩に何かが乗せられて、さらに後ろから恭介さんに包み込まれた。
「まだ寒いか?」
「ううん、あったかい」
胸元に視線を遣れば、大判ストールのようなものが巻かれている。
こんなもの、いつの間に用意していたのか。
「恭介さん、用意周到ですね」
「ひなたの世話を焼くのは俺の仕事だからな」
「ふふん、嬉しい。恭介さん、寒くない?」
「俺は大丈夫。ひなたがモコモコしてるからあったかいよ」
ゆったり厚手のニットを着ているのにストールまで巻きつけられて、確かにモコモコだ。
それでも後ろからぎゅっとされて、恭介さんの大きさを感じたら、きゅんとして幸福度もアップする感じ。
「……海、綺麗ですね」
「そうだな」
周囲には誰もいなくて、視界いっぱいの海と空だけがそこにある。
頬に当たる風は冷たいのに、ストールと恭介さんの体温と、好きな人からの思いやりが私を暖かく包み込んでくれて本当に幸せ。
今度はついニヤついてしまって、声が漏れた。
「ふふん」
「ん?」
「楽しいなって思って」
「何もしてないけどな」
「ギュッってしてるじゃないですか、絶景も二人占めで」
この辺りに人の気配はないから、そんな気分だ。
「まあ、そうだな」
「恭介さんは? 楽しくないの?」
「楽しいと言うか、ひなたが喜んでるのなら、俺は嬉しい」
それって楽しいになるのか? と悩んでいるから、その表情が見たくなって腕の中で振り返る。
やっぱりちょっと、般若顔。
こんなことでも真剣に考えてしまうところだって可愛く思えたりしちゃうなんて、契約結婚を持ちかけたあの夜なら想像もできなかったなあ。
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