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「我慢の効かない男ですまないな」
「しなくていいですそんなの。二人きりなんだから」
「たとえ二人きりでも、資料室じゃ何もできないしな」
「……するつもり、だったんですか?」
あの時、スチール棚と恭介さんとの間に挟まれて、本音を言えばドキドキしていた。キスくらいされるんじゃないかと、そわそわしていた。
でも、恭介さんは何もしてこなかった。
仕事中だから当然と言えば当然だが、誰も見ていなかったのも事実。だからどっちでもよかったと言うか。
「される気じゃなかったか?」
ニヤリと笑った顔はとても楽しげ。
見透かされた悔しさから、ちょっとだけ口調を強める。
「課長がそんなことしたらいけません」
「そうだな……」
ほんの少しだが叱るように言ってしまったせいか、しゅんとしている。けどその顔は、可愛い。
だから。
「でも、今ならいいですよ?」
首に回していた腕でぐいと引き寄せ、唇を触れさせた。
「恭介さん」
にこりと笑えば、しゅんとしていたはずが今度は般若顔になった。
困った時、心配な時、恭介さんはこういう般若顔になるのだと、始めは知らなかった。
今は困っている、なのかな。
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