▼部下と結婚

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 取り留めもなく脳内を駆け巡るのは、週末、部下である石森の話を訊いて考えたことだった。訊いてというよりは絡まれて、と言ったほうがしっくりくる状況だったのは否定しない。  仕事以外のことを考えながら出社するのなんて初めてだろうか。そう思いながら、まだ静かな社屋のエントランスを通り、エレベーターに向かって行く。  朝七時。この時間に出社する社員は皆無ではないものの、かなり少ない。同じ生産管理部の社員でこれほど早い時間に来る者はいないから、溜まりがちな仕事をこなせるのが、早朝出勤を続ける理由だ。  四階で開いたエレベーターを降り、事務所へ向かう長い廊下を歩く。  いつも通り、自分の靴音だけが響くのを聞くのが案外好きだ。誰もいない事務所も、深夜でないからか爽やかな気分でいい。  結局仕事が好きだ。いつの間にそうなったのかは忘れたが、入社以来ずっと必死だったような気はする。  多分これからも変わらず、仕事人間として生きていくのだろう。それに対して疑問もなければ、改善しなければとも思わないが。  デスクに着いて、PCを起動させながら貼り付けられたメモに目を通す。昨日早めに帰ってしまったから、今から開くメールはかなりの量だろう。  だからこその早朝出勤だろう? と自問し、「だな」と呟いた。
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