▼部下と結婚

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「やっぱり! ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした! それと、忘れてください! 酔っぱらいの戯れ言だと思って」  戯れ言?  確かにそうかもしれないが、こっちはその戯れ言のおかげで、せっかくの休日の大半をそれについて考える時間として費やしたのだ。戯れ言で片付けられるのもいささか腹が立つ。  それだからか、石森が申し訳なさそうな顔をしているからか、困らせてやりたいという、少しばかりイジワルな気持ちが芽生えた。 「そう簡単に忘れられないだろう。なんせ女性に結婚を迫られたのは初めてだったんだ。しかも恋人でもない相手から。これは一生、忘れられないな」  椅子の背に凭れ、胸の前で両腕を組んで見上げれば、石森が思いきり目を見開いた。  忘れてくれという提案は、簡単に受け入れられると思っていたのだろう。 「そ、そんなこと言わないでっ」  「じゃあどう言えと?」  俺を見つめたまま固まっている。  困った、という感情が素直に顔に出るから、それを見るのは面白い。だが、あまりからかいすぎてもいけない。相手は部下なんだった。  石森といるとなんだか調子が狂うというか、ついからかいたくなってしまうというか。  素直すぎる反応は大人の女性とは言い難くも、悪い感じはしないからだろうか。  組んでいた両腕をほどき、同時に抱えていた、気遣わしい思いの方を言葉にする。 「石森。酔った勢いとはいえ、俺に結婚してくれと頼むくらいだ。その悩みを解決したいんじゃないのか?」 「解決はしたいです。けどこんなこと、課長に頼むことじゃないですし」  『結婚して?』そう言った瞬間の石森は、あまりに切羽詰まったように見えた。少しでも重荷を軽くしてやれるのなら、たった三ヶ月結婚ごっこに付き合うくらい、俺にとっては大した問題でもないように思えたのだが、石森は後悔しているのだろうか。俺に、結婚を迫ったことを。
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