▼部下と結婚

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 さっきは困らせてみたいという衝動を感じたのに、今度は、助けてやりたいという、真逆の気持ちが湧き起こる。  結婚しろと迫ってきた石森と、忘れてくださいと言った石森のように、自分の内側にも、相反する思いが混在しているのだと知った。それがなぜなのか理由はわからないが、確かに感じた思いであるのは間違いない。  今日は忘れろと言ってきた石森だが、本心では相当思い詰めているのかもしれない。たかが結婚でそれほど悩まなければならないと思えば、やはり気遣わしい。  結婚なんてしてもしなくても、男にとっては大した問題でないように思う。少なくとも俺はそうだ。  結婚して、家族が増えて、責任も増える。その割に自由になるものは減るばかりだと世間では認知されているし、自分もそう捉えている。そこに、どんなメリットがあるというのか、と。  そう考えてしまう俺には多分、結婚なんて向いていない。だからやはり興味もないし、しなければとも思わない。なんならこのまま、一生しない可能性もある。  ただ、世間的には、結婚できない何らかの欠点がある男、と見られることは、何となくだが理解できる。それがあまりいいイメージでないことも。  だからと言ってそれを一々訂正して回るのもおかしいし、だったら一度くらい結婚してみるのも悪くないかもしれないと思ったのは、ある意味本音だ。  しかも期間限定となればお試しのような感覚で、終わりが決まっているからお互い気楽だろう。バツイチになることくらい、男の俺にとってはどうってことないし。  だから石森との契約を反故にするつもりはなかった。  それで石森を悩みから救えるのだと言うのなら、むしろお安いご用だ。
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