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「石森。本当に、お前が思うほど迷惑には思っていないから心配ない。せっかく人もいないし、今の内にいろいろ確認しておくか」
手帳を取り出して、今から三ヶ月間の予定を確かめる。
仕事に暇な時などない。だからいつ始めていつ終わらせても、結果は同じだろう。だったら躊躇う理由もない。さっさと始めてしまえば、いつの間にか終わりが来るだけだ。
そう思って顔を上げれば、石森はポカンと俺を見下ろしていた。
「契約期間は今日から三ヶ月。それで、この悩みとは、おさらばできそうか?」
自分からむちゃくちゃ言い出したくせに、シラフの時はそんな横暴さは見せないらしい。全く不思議なやつだ。
そう思えば、自然と笑みが零れた。つられたように、丸くなっていた石森の目が横に伸びていく。
それを眺めて、存外満足に感じている俺がいる。自分はいつから、こんなおせっかいな人間になっていたのだろうか。
「はい! ありがとうございます! 三ヶ月、よろしくお願いします!」
「ああ。契約成立だな、よろしく」
椅子に座ったまま手なんか差し出して、まるで新規の契約を成立させた営業とその取引先のような握手を交わせば、石森の表情にもはっきりと柔らかさが戻った。
パッと花が咲いたような笑顔は久しぶりに見たが、明るい表情というのはやはりいいものだ。特に、石森の笑顔には人を元気にするパワーのようなものを感じて、こんなことで気が楽になってくれるのなら、と思えてしまうのだから。
俺の手にすっぽり収まった、小さくて柔らかな手を握り、そんなことを考えていた。
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