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「ひなた、帰れそうか?」
呼んだ事もない下の名前で呼べば、石森の顔はさらにを赤く染まった。
もちろんわざと呼んだ。仲の良さを見せつける必要があるからだ。
その様子を眺めていた川村が、ニヤニヤと口元を歪めた。
「課長、見せつけますねえ。いいなあ新婚!」
「か、帰れます! 帰りましょう! 早く!」
さっきまでオロオロしていたくせに、今度は焦って急かし出した。石森というのは、なかなか忙しい奴のようだ。
「俺も結婚したーい。ああもう帰ろっかなー」
「ああ、川村もたまには早く帰ったらどうだ?」
「うわあ、浅井課長にそんなこと言われるなんて。結婚、ますますしたーい!」
あまり油を売り続けてもいけないと、石森のデスクに近づいて彼女に声をかける。
「じゃあ、行こうか」
「は、はい!」
本当に結婚するような関係でないから、上司の俺に話しかけられると緊張するのだろう。だが、石森の感情は思いの外態度に出るのだと知れて、得したような心地になった。
部下と言っても、知らないことの方が多い。こうして少し交流を深めていくのも悪くない。
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