▼部下と結婚

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「もう少し作戦会議が必要だな」  じっと見つめてやれば、視線を逸らしていた石森が一瞬、こちらに目を遣った。だがすぐに逸らされる。  二人きりだからって、うっとり見つめ合うような関係でないのだから当然だ。  誰も乗り込んで来ないのは珍しいのか珍しくないのか、こんな時間に退社することのない俺にはわからないが、今日はそれが有難い。 「行き先は、俺の家でいいな?」 「え?!」 「今から行く場所だ。俺の家でいいか?」 「えっと、それはどういう……」  明らかな警戒。一応男として見られている証拠だろうか。全く警戒されないのも悲しいが、連れ帰ってどうこうするつもりもない。  石森は俺の、部下なのだ。 「そう警戒しなくても襲ったりしないから。合鍵を渡す。行き来している方が自然だろう? あとはもう少し、お互いのことを知らないとまずいよな」 「え……」 「ん?」 「襲ったりしないって……」 「……ああ、言い方が悪かったな。結婚したのにお互いを知らなさすぎるのはまずいだろう。好き嫌いだったり」 「ああ、はい、そういうことなら」  そういうこと以外、時間を共有するつもりはない、とでも言いたかったのか。それはそれで悲しい気もするが、所詮三ヶ月限定の結婚生活だ。そんなところが妥当だろう。  そう思えば納得で、苦笑いが漏れた。 「石森が不安なら、玄関で話せばいい。何かあってもすぐに逃げられる」  見下ろしていた石森が微妙に不安そうな顔をしたから、つい揶揄うような口調になった。 「ちょっと、変な冗談やめてください」 「いいじゃないか、新婚なんだから」 「もうっ」  石森の膨れっ面がおかしくて、今度は素直な笑い声が零れた。
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