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「もう少し作戦会議が必要だな」
じっと見つめてやれば、視線を逸らしていた石森が一瞬、こちらに目を遣った。だがすぐに逸らされる。
二人きりだからって、うっとり見つめ合うような関係でないのだから当然だ。
誰も乗り込んで来ないのは珍しいのか珍しくないのか、こんな時間に退社することのない俺にはわからないが、今日はそれが有難い。
「行き先は、俺の家でいいな?」
「え?!」
「今から行く場所だ。俺の家でいいか?」
「えっと、それはどういう……」
明らかな警戒。一応男として見られている証拠だろうか。全く警戒されないのも悲しいが、連れ帰ってどうこうするつもりもない。
石森は俺の、部下なのだ。
「そう警戒しなくても襲ったりしないから。合鍵を渡す。行き来している方が自然だろう? あとはもう少し、お互いのことを知らないとまずいよな」
「え……」
「ん?」
「襲ったりしないって……」
「……ああ、言い方が悪かったな。結婚したのにお互いを知らなさすぎるのはまずいだろう。好き嫌いだったり」
「ああ、はい、そういうことなら」
そういうこと以外、時間を共有するつもりはない、とでも言いたかったのか。それはそれで悲しい気もするが、所詮三ヶ月限定の結婚生活だ。そんなところが妥当だろう。
そう思えば納得で、苦笑いが漏れた。
「石森が不安なら、玄関で話せばいい。何かあってもすぐに逃げられる」
見下ろしていた石森が微妙に不安そうな顔をしたから、つい揶揄うような口調になった。
「ちょっと、変な冗談やめてください」
「いいじゃないか、新婚なんだから」
「もうっ」
石森の膨れっ面がおかしくて、今度は素直な笑い声が零れた。
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