▼部下と結婚

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「一駅って、こんなに近いんですね」  電車を降りた石森の感想はこうだった。  さっき酷く揺れた時に思わず背中を抱いてしまったことなど、全く気に留めていないような明るい声が響く。妙に気にされても困るから、これくらいあっけらかんとしてくれると楽でいい。  会社の前にある駅から電車に乗って一駅揺られ、五分歩けばもう一人暮らしのマンションに辿り着く。職場にも駅にも近い。スーパーへも徒歩五分で行けるし、一階部分にはコンビニもある。便利だ。  ちょっと飲んで帰るにしても、電車なら、飲酒運転の心配は不要だし。  そんな理由からこのマンションに決めたのだが、入居以来不満は一つもなく快適だ。 「石森はどの辺に住んでるんだ?」  電車の中は混み合っていて、とても話をするような時間には充てられなかった。こんな時間に帰るとこれほどの乗車率だったかと、もう忘れていた新入社員時代を思い出そうとしてみたが、あまり思い出せなかった。 「私、ここからまだ四つも先まで行って、さらに十分くらい歩きますよ。車通勤に変えてもいいくらいなとこです」 「実家か?」 「違います。実家には兄夫婦も住んでるので、私は追い出されて一人です」 「追い出されてって。まあ一人の方が気楽だろ。気を使い合う関係よりは」 「うーん。そうですね、結局そうかも」  そうだよな、と頷くともうマンションに到着した。
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