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「ちょっと、課長だからって人の趣味笑うのはダメですよ?」
「ああ、悪い悪い。石森は、案外可愛らしいものが好きなんだな」
「む。それ、子どもっぽいってことですよね?」
「そうじゃない。まあ、随分とかわいらしくはあるが」
俺がそう言うと、パンダの手帳に視線を落として黙ってしまった。
パンダだろうとイチゴだろうと、誰に迷惑をかけるでもないようなものなら好きにすればいい。
それに笑ったのは、馬鹿にしたからでもなんでもない。パンダの手帳に向けられた愛おしそうな表情が、単に愛らしかったからだ。
誰だって、他人から見ればどうってことのないものに熱中したりするものだ。そんな僅かな側面だけでは、人の中身は判断できないんじゃないか。
「どうせ子供っぽいですから」
「そんなこと言ってない。可愛らしいものが好きだから子供っぽいなんて、そんな単純じゃないだろう。それに石森は子供っぽくなんかない。ちゃんと大人の女性に見えてるから」
「そ、そうですかね……」
大人の女性と言われて照れたのだろうか。そんな言葉ひとつで頬を赤らめているのが大人っぽいとは言い難いが、それは黙っておこう。
しかし、他人の意外なところを知るというのは悪くない。いや寧ろ、面白い。
そう思いながら手帳を広げ空いたページを探していると、石森が慌てたような声を出した。
「まさか書くんですか?」
俺に向けられた上目遣いの視線が、そんなことをしてくれるなと訴えている。
その仏頂面に、すぐに首を横に振った。印象深すぎて、パンダのことは書かずとももう忘れないだろう。
「いや、これはもう覚えたよ」
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