▼部下と結婚

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 石森はまだ膨れっ面だったが、こちらとしては馬鹿にしたつもりは毛頭なく、かわいらしいところがあるのだなと本当にそう思ったのだ。だが不快にさせてしまったなら悪かったと思い、苦笑する。 「あ」  携帯電話の音。それに石森が反応した。  バッグの中をごそごそやって、ちらと画面を見て、すぐにホイとバッグに押し込んだ。 「いいのか? 少しくらい待っても構わないが」 「いいんです、吉永君からだったんで」 「吉永?」 「はい。同期なんですよ。多分どうでもいいことです、吉永君なんで」 「酷い扱いだな」  酷いというか、気の置けないというか。 「そうですかね。吉永君にはこれくらいで丁度いいような」 「どうして?」 「なぜかモテるんですよ、吉永君て。だからあまり親しいと思われたくないっていうか、吉永君狙いの人に勘違いされたら困るというか」 「でも連絡が来たんだろう? もしかしたら、向こうは石森に気があるんじゃないか?」  冗談めかして言えば、心底嫌そうな顔になった。 「ええー! 絶対嫌です、あんなチャラ男」 「ふっ。そうまで嫌がられたら、吉永もかわいそうだな」  吉永がチャラチャラしているのは見ていればわかる。だが、甘口のあの顔は、女性に好かれそうだと思ったのだ。  それに、どうせ離婚するのならば結婚相手は誰だってよかったはずだ。だったら吉永だって良かったんじゃないかと思った。同期なら、俺よりずっと親しいだろうし。  それでも石森が頼ったのが俺だったのだと思えば、込み上げる優越感。雄の本能のようなものだろうか。選ばれて嫌な気はしない。  まあ、実際は誰だって良かったから、通りすがりの俺なんかに迫ったのだろうが。 「石森、俺がチャラ男じゃないなんて保証、どこにもないぞ? このまま部屋に連れ込むかもしれないし。こんな男と契約して、本当に大丈夫だったか?」  腰を屈めて、石森の顔を覗き込みながら口元を歪めると、「またあ〜」と軽く流され、どことなくホッとする。
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