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石森はまだ膨れっ面だったが、こちらとしては馬鹿にしたつもりは毛頭なく、かわいらしいところがあるのだなと本当にそう思ったのだ。だが不快にさせてしまったなら悪かったと思い、苦笑する。
「あ」
携帯電話の音。それに石森が反応した。
バッグの中をごそごそやって、ちらと画面を見て、すぐにホイとバッグに押し込んだ。
「いいのか? 少しくらい待っても構わないが」
「いいんです、吉永君からだったんで」
「吉永?」
「はい。同期なんですよ。多分どうでもいいことです、吉永君なんで」
「酷い扱いだな」
酷いというか、気の置けないというか。
「そうですかね。吉永君にはこれくらいで丁度いいような」
「どうして?」
「なぜかモテるんですよ、吉永君て。だからあまり親しいと思われたくないっていうか、吉永君狙いの人に勘違いされたら困るというか」
「でも連絡が来たんだろう? もしかしたら、向こうは石森に気があるんじゃないか?」
冗談めかして言えば、心底嫌そうな顔になった。
「ええー! 絶対嫌です、あんなチャラ男」
「ふっ。そうまで嫌がられたら、吉永もかわいそうだな」
吉永がチャラチャラしているのは見ていればわかる。だが、甘口のあの顔は、女性に好かれそうだと思ったのだ。
それに、どうせ離婚するのならば結婚相手は誰だってよかったはずだ。だったら吉永だって良かったんじゃないかと思った。同期なら、俺よりずっと親しいだろうし。
それでも石森が頼ったのが俺だったのだと思えば、込み上げる優越感。雄の本能のようなものだろうか。選ばれて嫌な気はしない。
まあ、実際は誰だって良かったから、通りすがりの俺なんかに迫ったのだろうが。
「石森、俺がチャラ男じゃないなんて保証、どこにもないぞ? このまま部屋に連れ込むかもしれないし。こんな男と契約して、本当に大丈夫だったか?」
腰を屈めて、石森の顔を覗き込みながら口元を歪めると、「またあ〜」と軽く流され、どことなくホッとする。
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