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「家族への報告も必要だろう?」と言われたから、そこは適当に済ませておくと、課長には伝えた。
適当という言葉に浅井課長は不安がったが、心配無用だと言い切った。こういうことは大体、父親でなく母親に頼ればうまくいく。石森家で育った経験から、そうだと確信しているのだ。
帰宅して部屋着に着替え、母に報告しようとスマホを手に取った。
メッセージをやり取りできるあのコミュニケーションツールを使ったのだが、何の前触れもない結婚報告にも関わらず、やはり母は動じなかった。それどころか『やったー! おめでとう! 相手は誰? 子供は?』
こんなメッセージが返ってきた。
結婚相手が会社の上司で課長だということと、子供はいないしとりあえず週末婚だという旨を伝えると、『結婚式は?』とまたメッセージがくる。
それに対し、忙しいから未定だと送ればこれも了承してくれた。
母としては今、私の結婚どころじゃないのだ。同居している兄夫婦に子供が生まれたばかりで、初めておばあちゃんになったから、孫が可愛くて仕方ないらしい。
結婚報告をしたというのに、甥っ子の写真が送られてくるのだもの。もちろん頼んでもいないのに。
まあ、かわいいからいいんだけど。
それに、結婚相手が上司なのも、かえって良かったのかもしれない。何処の馬の骨ともわからないような人間でないのが、母にとって安心材料になったんだろう。
いい人と結婚できてよかった。期間限定だけど。
父は母に対して強く言えない人だから、決定事項としてさらっと伝えられたら文句なんかは言えないだろうしそこは問題ない。
そんなこんなで、早急に顔合わせを、なんてことも求められずに済んでこちらとしては助かった。
多分、母にとってもそのほうが都合が良かったんじゃないだろうか。堅苦しいのが苦手な人だから。
そのことを早速、契約上の夫である浅井課長に事務的に報告すれば、こちらももちろんあのツールを使わせてもらったのだが、すぐに『了解』と短い返事がきた。
あっさりとしたやり取り。けれどそれでいい。これは契約だから。
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