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綺麗だ。部屋が綺麗すぎる。
服は散乱していないし、ゴミも見当たらないし、ダイニングテーブルの上だって何も置かれていない。引き戸の手前から眺めたベッドの上だって、本当にここから出勤したの? と思うくらい綺麗に整っている。
急いでキッチンへ引き返し冷蔵庫を開ければ、そこそこに満たされた食材。玄関の方へ戻って目に入ったドアを開けた。ベッドルーム。回遊式か。その向こうのドアはトイレ。反対側の扉はバスルームだった。
そこで灯りをつけ、目を凝らす。
「あれ、ない……」
これだけ綺麗なんだ。本当は女の人がいるんじゃないかと疑った。けれどそれらしき物は見当たらず、拍子抜けする。
どうやら綺麗にしてくれる女性がいるわけではなさそうだ。確かに彼女はいないと言い切ってはいたけれど。
そう考えて、今更気がついた。
彼女がいたとしたら、その部屋の合鍵を私なんかに持たせるはずがないじゃないか。
「あー、そうだよ。何やってるんだろ」
緊張から強張っていた肩の力が抜け、パタンパタン、開けて回ったドアを閉めながらリビングに戻って、黒いどっしりとしたソファーに倒れ込んだ。
大きく息を吸って、吐く。革の匂いはしないから、かえって安心した。
けど、私はこの部屋で、一体何をすればいいんだろう。
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