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広く綺麗な部屋にある大きくどっしりしたソファーというのは、随分寝心地がいい。
それに気づいたのは、何か音が聞こえたような気がして無意識に瞼を持ち上げていたからだ。
「ハッ、うそ、寝てた?」
さすがに、浅井課長の家に上がったところまで忘れるほど眠ったわけではなかった。
ガバッと体を起こすと、するすると足の上を何かが滑って行く。毛布。
ソファーの背を掴んでキッチンを覗けば、エプロン姿の浅井課長がいた。
さっき聞こえた音と同じ、ジュワ〜ッという、本能に訴えかけるような音は、あそこから聞こえていたのだ。
思った通り、本当に料理をしているから驚く。やっぱりできるんだ、凄い。ワイシャツとネクタイはそのままでエプロン姿なのが、なんとも熟れているというか。
感心している場合ではないのにぼけっと見つめてしまって、そのタイミングでフライパンを置いた浅井課長が顔を上げてこっちを見るから、目が合ってしまった。
「あ」
「なんだ、起きたのか。そんなところで寝て、風邪なんか引くなよ?」
「はい。あの」
「うん?」
「すっ、すみません!」
ソファーの上に正座して、背もたれを掴んだまま頭を下げた。
「何が?」
何がって、あれもこれも全部なんですが。
怖々顔を上げ、浅井課長の表情に注視しながら告げる。
「え? いや、勝手に入って勝手に寝てて、毛布まで掛けてもらって。あと、何もしてなくて」
言えば言うほど自分に呆れてしょぼくれていく。
いくら三ヶ月とはいえ、こんな女と結婚してしまったことを早速後悔しているに違いない。
だって、ちゃんと出来る人なんだ。そりゃ、相手にも求めるよね?
「入ったのは勝手にじゃないだろ。それに気にすることない。疲れてたんだろう?」
疲れたと言えば疲れたけれど、遅く帰った浅井課長の方が疲れてるに決まってるじゃない。
なんでそんな優しいことを言うんだろう。もしかして浅井課長、私のこと好きだった?
そんなわけないか。その解釈、どう考えても自分に都合良過ぎだし。
「石森、あー、ひなた、生姜焼きが出来たから、食べよう」
「え……」
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