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恭介さんの作ってくれたご飯は美味しかった。私が作るとすればまず生姜焼きのタレを買って来なければならないのに、彼のはそういうのじゃない。
「独身も長くなってくると、それなりに出来てしまうものだ」なんて言っていたけれど、出来ない人は出来ないままだと思う。だって、私がそうなんだもの。
今時、料理なんか出来なくても困ることはない。コンビニは二十四時間開いているし、今や買えるものはお弁当だけに限らない。スーパーのお惣菜売り場に勝負を挑んでいる、と言ってもいいほどの品数は、ローテーションさせれば、わざわざ作ることなんてバカバカしく思えるほどにある。
それに、一人分を丁度よく作るのは難しい、二人分の方がかえって作りやすいのだ、と美保が言っていた。
だったら尚更、一人暮らしで料理をするのが無駄なことのように思えてしまう。
そう思うのは、私だけなんだろうか。恭介さんは、いつもこうやって自炊しているんだろうか。そういう生き方をしている人が、契約だとしてもなぜ私と結婚してくれたんだろうか。
食器を洗う恭介さんの隣で、ぼんやりお皿を拭きながら考えてしまった。
でもそこで、なんとなくわかった。多分これが、こういう風な考えをしてしまうところが、結婚できない理由なんだろう。
料理なんてしなくても。
そう思うのは本当だけれど、恭介さんの作ってくれたご飯は確かに美味しかったのだ。
恋人が私との結婚を意識しなかった理由。それを突き付けられたような気がした。ズボラだな、と呟いた元カレの心奥には、そういう思いがあったのかもしれない。
別れる前に気づけていたらよかったのかな。
そう思ったらやっぱり悲しくて、ふっと気分が落ち込んだ。そのせいで、手が滑った。
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