夫婦ごっこ

13/41

5221人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
「あっ!」  派手な音を立てて床に衝突したお皿が砕けて、足元に散らばった。その音で我に返って、布巾を置いて慌ててしゃがみ込む。  間違いなく、こういうおっちょこちょいなところも欠点。    早く、早く片付けなきゃ! 「ああ、大丈夫か? 俺がやるからちょっと待ってろ」  そう言われても、待ってなんかいられない。だって私は、何もできない。だから誰からも選ばれなかったんだもの。  何に対してか焦りながら、黙ってカケラを拾い、手のひらの上に集めていく。  洗い物で濡れた手を拭いた恭介さんがしゃがみ込んで、カケラの散らばった床に影ができた。 「ひなた、どうした? そんなに慌てなくても、皿なんていくらでもあるんだから平気だぞ? 怪我したらいけないし」  すぐ近くから聞こえた宥めるような声にハッとして、カケラを摘んでいた指に変な力が入って落としてしまった。 「っ……」 「ほら、危ない」  恭介さんは私の左手に載せられたカケラをそっと床に戻すと、載せる物のなくなった手を大きな両手で包み込んで、完成品の検査でもするようにじっと見つめた。 「こっちは大丈夫」  そう言うと、今度は右手を開いて確かめる。 「あ、血が出てる」  人差し指の先に、ぷっくりと血が浮かんでいる。別に、痛いというほどでもないような傷だ。  その人差し指が突然、上の方に持っていかれた。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5221人が本棚に入れています
本棚に追加