5221人が本棚に入れています
本棚に追加
割れたお皿の片付けの殆どは、恭介さんがやってくれた。
「お前が動くと危ないだろう?」そう言って、私の周りに散らばったお皿のカケラはどんどん片付いていく。
掃除機までかけ終えたところで、漸く動くことを許された。
「すみません。私、迷惑しかかけられなくて」
とっくに絆創膏が巻かれた指に触れながら見上げると、「ははっ」と笑われた。
「今のは、掃除機と迷惑のかけるをかけたのか? 面白いな、お前は」
ははは、と声を出して笑っている恭介さんは、私がお皿を割ったことも、結局何もできなかったことも、血の出た指を舐めたことすらもう気にしていないように思えた。
私より大人だから、かな。
四つの差は大きいのかもしれない。別に、冗談を言ったつもりはなかったんだけど。
普段職場でもそうだけれど、恭介さんは全てに余裕があるように見えて、対比で余計に自分がちっぽけに思える。
「ひなたはコーヒーと紅茶、どっちがいいんだ?」
ほら。さっきのことを引きずったままの私を追い越して、もう次のところへ進んでいる。ここまで違いが歴然としていると、もう追いつくなんて無理だと、諦めの気持ちしかなくなった。
「紅茶をストレートで」
不貞腐れた言い方をしてしまった。相手は上司なのに、なんて子供っぽい態度。
「はいはい。持って行くからソファーでいい子にしてろ」
それなのに、恭介さんの機嫌は悪くないようだった。
私の弱みを握っていくのが楽しいとか?
いや、そんな人じゃないよね。プライベートのことはよく、というより全然知らないけれど。
だけどこれじゃ、迷惑をかけている上に横柄な態度で、最悪を上塗りしているようなものだ。
情けないのに涙も出ない。
それでもなけなしの自責の念が、これ以上迷惑をかけるなと忠告してくる。
多分、お言葉に甘えるのが一番迷惑をかけないで済むような気がして、素直にソファーへ向かい、端の方に座って恭介さんと紅茶がくるのを待った。
最初のコメントを投稿しよう!