夫婦ごっこ

16/41
前へ
/246ページ
次へ
 しかしこのソファー、寝心地も良かったが座り心地も良い。背中と頭を預けたこの状態であと少し力を抜けば、すぐにも眠れそうだ。  欲しいな。うちに置いたら居場所がなくなっちゃうけど。なんて考えているところ、やっぱり私は脳天気だ。  そうやって少しの間目を閉じていたら、恭介さんの近づいてくる気配がした。 「お疲れのお嬢様に紅茶をお持ち致しました」 「え、執事?」 「紅茶といえば執事だと思ったんだが」  冗談なのか本気なのか。いや、冗談だよね?  そんな事を言いながら、ソファーの前のテーブルにことりとカップを置いている。  さすがに本物のお嬢様が使いそうなカップではなかったけれど、職場での、上司としての恭介さんしか知らない私は十分戸惑った。こういう冗談を言う人だとは思わなくて。  でも、戸惑った理由はそれだけじゃない。  さっき食事をしている時から、気にはなっていた。    いつの間にかネクタイは抜き取られていて、襟元のボタンも開いている。シャツの袖だって捲られているせいで、肘の下辺りまで腕が見えてしまっている。大きな手に引き締まった手首、そこから肘に向かっての筋肉の付き方が綺麗で、妙に男っぽいのが強調されているのだ。  普段見えないものが見え隠れするというのはどうも……。彼氏いない歴一年になるせいか、ドキッとせずにいられない。  執事の装いとは違うけれど。  執事でなく、上司だけれど。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5221人が本棚に入れています
本棚に追加