夫婦ごっこ

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 パタンとドアの開く音がして振り返ると、お風呂上がりの恭介さんがリビングに向かって歩いて来た。Tシャツにスウェットのズボンを履いて、いつも斜めに流れている前髪は下ろされて、額が隠れていて。  見たこともない上司の姿に息を飲んだ。  普段よりずっと若く見えるし、見慣れない無造作感も、なんだかかっこよく見えてしまって。 「お待たせ。お前もさっぱりしてこい。シャンプーとかその辺は、お気に召すかどうかわからないが」 「あ、はい」  お泊りセットを入れたバッグを抱えて立ち上がる。 「タオルは洗濯機の横の棚にあるから」 「あ、はい」  お風呂上がりだから当然、ワイシャツにスラックスなんてことあるわけないのに、ラフな姿がレアだしかっこいいしで、どうしたって目が釘付けだ。 「どうした? 具合でも悪いか?」  思いっきり見つめてしまったのを見咎められた。 「あっ、いえっ、行ってきます」 「はい、行ってらっしゃい」  微笑みひとつで見送られ、逃げるようにリビングを出た。
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