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「あの、お水もらいますね」
「どうぞ。そんなの、言わなくても好きにしてくれていいんだぞ? 週末はここがお前の家でもあるんだから」
「じゃあ、はーい」
お言葉に甘えて、好きにさせていただくことにした。
お風呂にも入ってスッキリサッパリ。後は寝るだけのこの時間に緊張したままじゃあ、疲れなんて取れないもん。
棚から適当なグラスを取り出して水を飲み干すと、やっぱりあの声が出てきてしまった。
「っああ〜」
「俺の奥さんは、おっさんだったらしいな」
離れた場所からそんな声が届いて、しまった! と思うのと同時に、まあいっか、とすぐに諦める自分がいた。
だって、どうせ三ヶ月も猫を被ったままじゃいられないし、結婚を迫ったあの夜に、私のめちゃくちゃなところはすでにバレているのだから。
「何と言われようと、もういいです」
話しながら歩いて、恭介さんの隣、それでも一応少し離れた場所に座った。すっぴんだから、できればあまり見られたくはない。
けど、レアバージョンの恭介さんをもう一度見ておきたくなって目を向けると、恭介さんもちょうどこっちを見て、目が合った。
仕事中とは違う、穏やかな目だ。
恭介さんも、一週間疲れただろうな。
「もう眠いのか?」
揶揄いを含んだ柔らかな声も心地いい。
「はい。何だか疲れたんで、できればもう寝たいです。明日は頑張るので」
だから恭介さんはベッドに行って休んでください。そしたら私の寝場所が確保されますから。
そんなつもりで言った。
「そうか。それならもう寝るとするか」
「はい。おやすみなさい」
このソファーなら朝までぐっすり眠れそうだ。うちのベッドより寝心地がいいとなると、ベッドの立場がなくなってしまうけれど。
いつの間にか畳んであった毛布を引き寄せて、恭介さんがリビングを出て行くのを待つ。
「何してる?」
立ち上がった恭介さんが、首を傾げて私を見下ろしている。
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