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見開いた目が乾いてきて瞬きを繰り返すと、恭介さんが吹き出した。
「ふっ。悪い悪い。お前を見てるとどうもからかいたくなって。ちょっとふざけ過ぎたな、すまない。部下に手を出すつもりはないから安心してくれ。俺はもう少し起きているから、おやすみ」
そんな言葉と微笑みを残して背を向けると、恭介さんはリビングと寝室を仕切る引き戸を閉めた。
暗闇の中に一人残されて、腕を掴んでいた指先に力を込める。
手のひらが熱い。
冗談が過ぎると怒る気持ちより、それを真に受けて焦ってしまった恥ずかしさの方が大きかった。未経験でもあるまいし、過ちの一度くらいあってもおかしくはないなんて、どうしてそんな風に思ったのか。
だって、相手は上司なんだ。
部下に手を出すつもりはないと言われて安心したような、なぜかがっかりしたような。
女として見られていないことに気持ちが沈んだんだろうか。でも、別に手を出して欲しかったわけじゃないし。
だけど心から拒んでいなかったのは事実で、圧し掛かられたらたぶん、抵抗しなかった。
でも、どうして?
恭介さんが優しいから?
それとも私、欲求不満?
そんな風に考える自分の気持ちがわからない。
何考えてる…………?
少しの間考えてはみたけれど、やっぱりわからない。
もうやめよう。わからないことをずっと考えたって、わからないのだ。そんなときは大人しく眠るに限る。緊張したり凹んだり焦ったり、いろいろありすぎてもう、脳みそプシュ〜だ。
きっと私を気遣って、ここで寝るように仕向けてくれたんだろう。とりあえず、その気遣いくらいは受け取っておいてもいいよね。
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