黒いバナナ

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「ひなたの良さに気づいてくれる人、いると思うな、私は」 「鈍くさいけど」 「まあそれは……そんなの許せるよって人が現れたら、その人こそ結婚相手になるんじゃない? だからそんな焦らなくていいって……あ、ごめん! もう旦那と約束した時間」 「え、もうそんな時間? ごめんごめん、じゃ、またね!」 「うん、ごめん、またね!」  パチンと両手を合わせて肩を竦めた友人は、愛する旦那様の元へ小走りに駆けて行った。  その後ろ姿をぼんやり見送って、温くなったコーヒーを前にスマホを取り出し検索する。結婚式に着て行く服を新調しなければ。美保の結婚式以来、参列するのは久しぶりだ。  売れ残りの黒いバナナだなんてバカにされたけれど、相手は今幸せの絶頂で、値引きシールが貼られる側の気持ちなんてわからないんだろう。  マリッジブルーならぬ、マリッジピンクにでもなっているに違いない友人の言葉を真に受けていては、これから先いくつ心があっても足りなさそうなので、敢えて気にしない方向で行くつもりだ。  別に彼女らに恨みがあるわけでもないし、もし自分が結婚を報告する側だったら、それなりに浮かれるものかもしれないし。  誕生日には間に合わないとしても、二人の結婚式で素敵な人と出会える可能性もゼロではない。そこに賭けるつもりもないけれど、少しくらい期待してもいいのかもしれない。  そうでもしなきゃ、やってらんないし。  ああ、ビール買って帰ろう。  コーヒーを一気に飲み干して、立ち上がった。
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