夫婦ごっこ

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「おはよう、ございます」 「ああ、おはよう。今は課長じゃないけどな」 「へ……? あっ、そうでした。すみません、恭介さん」 「ああ。にしてもお前、こんな広いベッドから落ちるなんて、器用だな」  大人二人が並んでも狭いなんてことはないサイズではある。そこから落ちるのだから、ある意味器用なのかもしれないが。 「朝からいきなりイジメるの、やめてもらえませんか」 「それ、イジメられるのに慣れてきた奴が言うセリフだ」  確かにそんな気もする。でも恭介さんだって、ちょっと会社の時と違い過ぎじゃない? 「うっ、乙女をからかう悪い大人がいる」 「ははっ。乙女なんてどこにいる?」  大きな手が伸びてきて、後頭部を摩る。頭なんか撫でたって、意地悪を言ったのは消えないんだから。 「ここです、ここ」 「ははっ、そうか、悪かった」  ニコニコ笑っちゃって。  恭介さんにこういうところがあったなんて、職場で会うだけの関係じゃ絶対に知り得なかったことだ。だっていつもは、もっとむっつりしてるっていうか。 「悪いと思ってませんよね?」 「ん? そう見えるか?」 「どう見えると?」 「休日にも関わらず、愛妻のために朝食を作ってくれる優しい夫に、見えないか?」 「朝食……あっ!!」  なにやら美味しそうな匂いがする。  使える女に……なんて頼んだのはどこの誰だったか。ほんと、ダメダメ女だ。  それでも私の上司は、本物の優しい夫になったような顔をして微笑んだ。
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