5220人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはよう、ございます」
「ああ、おはよう。今は課長じゃないけどな」
「へ……? あっ、そうでした。すみません、恭介さん」
「ああ。にしてもお前、こんな広いベッドから落ちるなんて、器用だな」
大人二人が並んでも狭いなんてことはないサイズではある。そこから落ちるのだから、ある意味器用なのかもしれないが。
「朝からいきなりイジメるの、やめてもらえませんか」
「それ、イジメられるのに慣れてきた奴が言うセリフだ」
確かにそんな気もする。でも恭介さんだって、ちょっと会社の時と違い過ぎじゃない?
「うっ、乙女をからかう悪い大人がいる」
「ははっ。乙女なんてどこにいる?」
大きな手が伸びてきて、後頭部を摩る。頭なんか撫でたって、意地悪を言ったのは消えないんだから。
「ここです、ここ」
「ははっ、そうか、悪かった」
ニコニコ笑っちゃって。
恭介さんにこういうところがあったなんて、職場で会うだけの関係じゃ絶対に知り得なかったことだ。だっていつもは、もっとむっつりしてるっていうか。
「悪いと思ってませんよね?」
「ん? そう見えるか?」
「どう見えると?」
「休日にも関わらず、愛妻のために朝食を作ってくれる優しい夫に、見えないか?」
「朝食……あっ!!」
なにやら美味しそうな匂いがする。
使える女に……なんて頼んだのはどこの誰だったか。ほんと、ダメダメ女だ。
それでも私の上司は、本物の優しい夫になったような顔をして微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!