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「そう言えば、恭介さんはどこで寝たんですか?」
すっかり朝食の用意が整ったダイニングで椅子に腰掛けて、やっとそのことを思い出した。
私が寝るときはまだ起きていたし、私が起きたときは既に起きていた。
まさかソファーで寝かせちゃった?
「俺か? ベッドで寝たよ」
「あ、そう、なんですね」
うわあ……。
何もしていないとは言え、本当に上司と一緒に寝ちゃったんだ。これ大丈夫なのかな。
でも恭介さんは、全く気にしていなさそうだ。
「ひなたの寝相の悪さもイビキの凄さも把握できた。これは夫婦じゃなきゃわからない秘密だな。いやあ、いい経験になった」
「げっ、お、お恥ずかしい、すみません」
恭介さんは、赤面する私を見て笑うだけ。
とにかく謝った。心の中で平伏しているのも伝えられたらいいんだけど。
眠っている間にまで迷惑をかけて、昨日した約束だって放ったらかしで好きなだけ寝かせてもらったなんて、とんでもない居候だ。
だけど、目の前の朝ごはんは美味しそうで。
「いただきます」
「どうぞ」
今朝も恭介さんの作る朝食は美味しくて、普段菓子パンとかバナナとか、買い置きしている適当なものを朝ごはんにしている私にとっては、旅館にでも泊まっているような気分だった。
ご飯に味噌汁、焼き鮭と、ほうれん草のお浸しまである。十分だ。十分すぎる。
これ、私が作るはずだったのに。いや、多分作れないけれど。
何してんだ、私。
上司のベッドを占領して眠りこけ、おまけに朝食まで作らせて。
お父さんお母さん、ごめんなさい。私、ちっともいい妻にはなれないようなので、本当の結婚はできそうにありません。
て、わざわざ報告しなくても察してるよね、きっと。あ、だからお母さん、あんなに軽い感じの対応だったのかな。
家族にまで結婚できない女の烙印を押されていたなんて。
でもこれじゃダメだ。ほんと、本気で頑張らないと。
「恭介さん、これ食べたら私、全力で頑張りますから、本気でコキ使ってください!」
「はいはい。わかったが、ほどほどにな」
やる気を漲らせる私に、恭介さんは柔らかく微笑んだ。
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