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会議室に資料を並べ終わり、コーヒーを用意するため給湯室へ行くと、またも声をかけられた。
「ひーなったちゃんっ」
この声のかけ方は吉永君。今日は厄日なんだろうか。
皆が石森さんと呼ぶ中で、一人だけ名前で呼んでくる。まあ、同期だからそれほど気にも留めてはいないが。
背後を振り返れば、目尻を下げてこっちを見ている同期がいた。目尻が下がっているのはタレ目だからか。
甘い顔立ちのイケメンに違いはないが、女子社員を手当たり次第食い散らかしているという噂があるから、お近づきにはなりたくないタイプだ。とは言え同期だし、あからさまに避けるつもりもない。その方がなんだか面倒臭いことになりそうな気がするし。
「吉永君、お疲れ様。今から会議だよね?」
「そうそう。その前に、ひなたちゃんの笑顔で充電させてくんない?」
「うーん、充電なら、総務でも覗いてきた方が良くない?」
総務なら、女性の人数が生管の比じゃない。それに、吉永君のことをうっとり見つめるような女の子も結構いるのだと聞くし。
「そーんなこと言わないでさっ。最近綺麗になったよ? やっぱ人妻だからかな?」
吉永君にあげてもいいエネルギーなんてありませんよ、という気持ちを含ませてそう言ったのだが、やはり伝わらなかったようだ。
「人妻……」
横からタレ目に顔を覗き込まれた。
「ちょっと、近いって」
そうか、端から見れば私は人妻、なのか。
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