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むず痒い。その、人妻って響きが。あと、タレ目の距離感も。
もしも本当に愛する人と結婚したのなら、喜んで人妻と呼ばれよう。だけど私は違う。籍は入れてしまったが、そこに愛なんてものは存在しない、ただの契約なのだ。
それに人妻って、なんだか響きがエロい。そしてその響きに自分が似合わないことも承知している。なんだか色気がバンバンあるようなイメージで。
残念ながらそんなもの無いらしいことは自分でもわかっているし、元カレにもそう言われていたから事実なのだろう。
大きめの目は嫌いではないけれど、子供っぽいような気もして色気とはちょっとかけ離れているような。それに凹凸の控えめな体。余分な肉が少ないというだけでくびれている訳でもないウエストに、平坦とは言わないまでも盛り上がり切らない胸とお尻。
はっきり言って、どこにも色気なんてないのは自覚済み。
そんな私に向かって、「綺麗になったよ、人妻だから?」
なんじゃそれ。
どこをどう見たらそう言えるのか。本物の人妻さんたちに申し訳ない気までしてくるじゃないか。
ああ、良くない良くない。どんどん卑屈になってきた。
コーヒーメーカーに人数分の豆をセットし、水を入れてボタンを押した。ついでに頭の能天気ボタンも押しておけ。それこそ私の、数少ない取り柄なんだから。
こんな簡単な作業だって、英子さんに何度も教えてもらいながらやったっけなあ。
それを思い出しながら、懐かしい気分に浸る。
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