夫婦ごっこ

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「結婚祝いの飲み会?」  午後三時。工場の休憩時間に合わせてチャイムが鳴ったのと同時に、向かいの席の川村君に声をかけられ顔を上げた。 「はい。だって、結婚式もやらないんですよね?」 「うん、やらない」  結婚式ね。三ヶ月後に離婚すると決まっていてそんなもの、やるわけないよ。  今日はなんかいろいろあるな、なんて思いつつ返事をした。 「じゃあせめてパーティーというか、お祝いの飲み会やりましょうよ!」 「お祝いかぁ」  胸が痛んだ。  気持ちは嬉しいんだけれど、川村君の笑顔に返すのに相応しい笑顔が作れず、苦笑いするしかなくて。 「……でも、浅井課長の予定もあるし」  歯切れよく返事ができないのは、やっぱり困るから。 「金曜なんてどうですか?」 「急ぐね」 「はい。課長、来週は出張じゃないですか。今週なら空いてるらしかったんで」 「あ、そうだっけ? しかももう予定押さえられてるじゃない」 「ハハッ、バレました? じゃ、そういうことで」  自分が結婚したわけでもないのに嬉しそうな川村君。  ほんと、ごめんなさい。  自分の蒔いた種が、思ったよりずっと大きな根を伸ばしていることに気が重くなった。
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