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「で、どういうこと? いつから付き合ってたの?」
「う……」
テーブルにトレーを置いた瞬間の問いかけに、言葉が詰まった。
総務課に提出した書類のせいで、『あの浅井課長が結婚した』とちょっとした噂になったらしい。
しかも相手は社内の人間だ。仕事一筋に見えたあの浅井課長が遂に堕ちた、と。中には狙っていたという人までちらほらいたというのだから、表立っていなかっただけでかなりの争奪戦だったということになる。
全然、知らなかった。浅井課長が、そんなにモテる人だったなんて。
個人情報なので、あくまで噂です、というタグがつけられてはいたようだが、全然情報守られてないじゃん、と突っ込みたくなる。
女性社員ばかりというのは噂の回るスピードも速いようだ。
当然、総務課勤務の美保の耳にもその噂は入ってきて、相手が私だと知り、どうにも気になってその日は仕事にならなかったじゃないか、と携帯に連絡がきたのは先週。
でも、電話とかメールとかのやりとりで上手く説明できる気もしなくて、会って話すから、と言えば渋々ながら承諾してくれた。昼休みにでも、とも言われたがそれは全力で断った。
だって、誰に聞かれるかわかったもんじゃない会社内で、まさか恭介さんとのことを話すわけにいかない。
この結婚の真相は、極秘事項なのだ。
そんなやり取りから数日経った今日、美保と向き合っているのはファストフード店。
できるだけ会社から離れたガヤガヤしたところで、という条件で考えたら、ここに辿り着いた。
「だってこないだみんなで会った時、何も言わなかったじゃない。てことはその後? え、ひなたから告白したの? それとも浅井課長から?」
小腹を満たそうと頼んだポテトにも飲み物にも手をつけず、テーブルに乗り出す勢いだ。
どう見てもかなり興奮している。この手の話が嫌いな女子なんているのかどうかわからないが、大好物というほどだったっけ? それとも単純に、私と恭介さんとの関係の謎を解きたいだけだろうか。
聞いて欲しかったはずなのに、いざとなるとなんだかうまく言えない。
「えっと、なんて言ったらいいかな……とにかくそういうことになっちゃって」
「なっちゃってって。それじゃ答えになってないよ。散々待たされたんだからちゃんと教えて」
「あ、はい。そうだよね……えっと————」
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