スピード離婚契約

夫婦ごっこ

　あの時は私が相当酔っ払っていたから、それをどうにかするため仕方なく言ってくれたのだろう。だけどその後謝ったとき、こう言っていた。

「お前が思うほど迷惑に思ってはいないから」

　今になってみればそんなはずないと思うのに、その場ではなぜか鵜呑みにしてしまって、気がつけば、本当に結婚していた。
　総務にだって届け出たし、区役所にも婚姻届を提出してしまった。なんか、トントン拍子で事が運んだ感がものすごい。

　だが三ヶ月後に離婚すれば、私たちはバツイチ同士ということになる。そこは納得していて、バツイチになることにそれほど抵抗はないのだけれど。

「だったらもう浅井課長の奥さんとして楽しむしかないんじゃない？　三ヶ月だけなんだし」
「え、うん」

　ちょっと驚いた。美保がそんな風に言うとは思わなくて。

「美保、なんでそんなことしたの、とか言わないんだ」
「だって、もうしちゃったんでしょ？」

　頷いた。
　だって他に、言える事なんか何もなくて。

「しかもひなたは後悔してないと」
「うん、今のところは」
「ならいいよ。ひなたが幸せならいいと思う」

　幸せ、か。
　今のところ全然、不幸ではない感じ。週末ルームシェアって感じかな？　いや、もっと好待遇だよね。

「それに、浅井課長ってちょっと怖そうだけど結構イケメンだし。もしかしてひなた、実はちょっと憧れてたとか？」

「ええっ！　違う違う、そんなの思ったことない、上司だし」
「ふうん、そうなんだ〜」

　面白がるような視線に耐えかねて目を逸らせたが、ベッドに運ばれたときに嫌じゃないと感じてしまった事は、さすがに言えそうになかった。
　あれはきっと、一時の気の迷いだ。