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▼純朴なキスを
喜び勇んで、というわけにいかないのは、彼女も同じだろう。
指定されたのは、会社の最寄り駅近くのレストラン。二人して並んで歩きながら、大した会話もないのがその証拠だ。
ただ、俺としては、嫌で仕方ないのが会話の弾まない理由ではなかった。
仕事は終わったというのに、頭の中がフル稼働している。もちろん、これから行くレストランでされるだろう質問予想と回答を準備しているからだ。
生管のメンバー全員出席、なんてことはないだろうが、幹事の川村と英子さんからどんな質問が飛び出すか侮れない。スラスラと答えられなければ、二人の結婚がただの契約であると見破られてしまう可能性もある。
俺はいいが、それでは彼女が辛いだろう。
「ひなた」
「はいっ」
「何か訊かれても、照れてるふりして笑ってろ」
「え」
「俺がなんとかする」
「……あ、はい」
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