▼純朴なキスを

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 用意されていたのは当然、隣同士の席。長いテーブルには、ただの宴会というには少しばかり豪勢なメニューが並んでいて、小さな花まで飾ってある。  お祝いだから会費は要りませんと言われたが、普段の飲み会と比べたら料金は高そうだ。  さらには一番奥に部長の姿を見つけ、自然と肩に力が入った。  いくら形式張ったものでないとは言え、こうまでしてもらって嘘だとバレるわけにはいかない。  できるだけ自然に、新婚らしく振る舞わねば。  席に案内されるや、畏まって頭を下げた。 「今日は二人のために、わざわざありがとうございます」 「浅井課長、カタイ! 楽しくいきましょう〜」  川村の言葉に肩透かしをくらいつつ、安堵した。本物の披露宴を行うわけでもない。幹事が堅苦しい気でないのなら、こちらとしても助かる。  それに、早く早くと急かす様子は、何らかの理由にかこつけてただ飲みたかっただけ、とも取れるような。  それでも一応なのか、部長から簡単な挨拶の言葉をいただいて、食事会は始まった。 「おめでとう、乾杯」 「かんぱ〜い! おめでとうございまーす!」 「ありがとうございます」  二人同時にそう言うものだから、部長の隣に陣取った川村から野次が飛んできた。  それから暫くは、皆食事に夢中だった。普段より奮発しているはずだから、そうなるのも無理はない。  何を訊かれるかと気構えていたが、こんな雰囲気なら悪くない。幾分肩の力が抜けて、やっとグラスのシャンパンに口を付ける気になった。  チラと隣を見れば、ひなたはもう目の前の食事に夢中になっている。  こういう洒落た料理は家で出してやれないから、たまには外食もいいものだ。グラスのシャンパンも気に入ったのか、あっという間に何杯目を飲んでいるのやら。
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