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「ひなた、あまり飲み過ぎるなよ? 酔うと大変だからな、お前は」
こそっと耳打ちしてやれば、フォークで刺したエビが口に入る寸前で止まった。
酔っ払って結婚を迫ってきた、あの夜のことでも思い出したのだろうか。
「あ……はい」
案外殊勝な返事をしてエビを口に含んだその横顔は、僅かに曇ってしまったようだ。
楽しく飲んでいるのに気分をぶち壊すのも悪いと思い直して、できるだけ明るい声音で囁く。
「今日は俺がいるし、帰る場所も同じだから、まあ、少しくらいなら酔っても構わないが?」
寄せていた体を離し目を合わせれば、ぱあっと明るい表情で俺を見つめ返してくる。
「じゃ、もう少しだけ飲んでも?」
首を傾げて訊ねられ、そんなに飲みたいのかと笑う。
「だってこれ、めちゃくちゃ美味しいですよ? 恭介さん、飲みました?」
「ああ、飲んだよ。確かに美味いな」
「ですよね! 焼き鳥とは合わないけど」
「ははっ、確かに焼き鳥とは合わない。あれにはビールでないと」
「そうそう! また行きましょう、あそこ」
「そうだな」
会話が噛み合っているうちは大丈夫だろう。
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