▼純朴なキスを

3/22
前へ
/246ページ
次へ
「ひなた、あまり飲み過ぎるなよ? 酔うと大変だからな、お前は」  こそっと耳打ちしてやれば、フォークで刺したエビが口に入る寸前で止まった。  酔っ払って結婚を迫ってきた、あの夜のことでも思い出したのだろうか。 「あ……はい」  案外殊勝な返事をしてエビを口に含んだその横顔は、僅かに曇ってしまったようだ。  楽しく飲んでいるのに気分をぶち壊すのも悪いと思い直して、できるだけ明るい声音で囁く。 「今日は俺がいるし、帰る場所も同じだから、まあ、少しくらいなら酔っても構わないが?」  寄せていた体を離し目を合わせれば、ぱあっと明るい表情で俺を見つめ返してくる。 「じゃ、もう少しだけ飲んでも?」  首を傾げて訊ねられ、そんなに飲みたいのかと笑う。 「だってこれ、めちゃくちゃ美味しいですよ? 恭介さん、飲みました?」 「ああ、飲んだよ。確かに美味いな」 「ですよね! 焼き鳥とは合わないけど」 「ははっ、確かに焼き鳥とは合わない。あれにはビールでないと」 「そうそう! また行きましょう、あそこ」 「そうだな」  会話が噛み合っているうちは大丈夫だろう。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5220人が本棚に入れています
本棚に追加