▼純朴なキスを

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「あらあ〜、イチャイチャしてる! いいわね、新、婚!」 「ああ、お恥ずかしい」  生菅の母親的存在である英子さんに背中を叩かれて、本気で照れた。ニコニコと、息子でも見るような眼差しで俺を見るからだ。  英子さんは若くして結婚、出産を経験したそうで、息子さんは確か俺と同年代。課長になると決まった時、「頑張ってね、でもあまり無理しちゃダメよ」と応援の言葉を頂いた。 「いいのよ。今日は浅井君のプライベートを見せてもらいたくて来たんだから」 「はい」  飲み会の席になると、こうして昔のように浅井君、と親しみを込めて呼んでもらえるのはありがたい。それをひなたに聞かれてしまうのは、少しばかり擽ったいのだが。  そう思い隣に目を向ければ、案の定、浅井君と呼ばれた俺を見上げて、にんまり笑っている。 「で? 家ではどうなの? 浅井君、何もせずどっかり座ってるだけのダメ亭主じゃないでしょうねえ?」 「え? あ、はい。あはは」  急に話を振られて困った顔のひなた。今度はそれを見た俺の方がにんまりする番だった。 「英子さん、俺ならちゃんと、ひなたを手伝って彼女の指示通り動いてますよ。なあ?」 「え、は、はい〜もちろん。いい旦那様ですぅ〜、あはは〜」  言うなりシャンパンを飲み干した。分かりやすい奴だ。 「そうなの? さっすが、デキる男はわかってるのねえ。家では奥さんの言うこと聞かないと上手くいかないもの、ね」 「はっ、はい〜、あはは〜」  焦るひなたの様子を見ているとおかしくて堪らない。  何もせずソファーで眠りこけているのはひなたの方だし、指示を出して言うことを聞かせているのも俺の方だ。英子さんの予想とは真逆の立ち位置なのだから。  思わず吹き出してしまって、そんな俺を英子さんが訝しんだ。
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