5222人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
コンビニで買うはずだったビールは、居酒屋の生ビールに変わっていた。帰宅したところで美味しいつまみが出てくるわけでもないし、本当のことを言えば料理は苦手。敢えて嫌いとか出来ないとか言わないようにしているのは、口にしてしまったら女として負けだと、どこかで思い込んでいるからかも。
金曜の夜だからか、店内には既にそこそこの人数がいて、そこそこの賑わいがある。
「なにが黒いバナナよ。そこそこの男と結婚が決まったからって得意になっちゃってさ。結婚なんて、しない人だっていっぱいいるのよこのご時世。あー腹たつ……」
カウンターに座った私の独り言なんて、誰も気にしちゃいない。
喉に流し込んだビールが随分苦い。普段より苦味ばかり感じ取っている気がするのは、愚痴っぽい自分のせいだろう。
結婚相手として選ばれなかったのではなく、自分が選択してこなかっただけ。そう思い込もうとしてはみたけれど、実際のところ、一年ほど付き合った辺りで明確な理由もなく振られることが続いていた。
そんな自分が、三ヶ月ちょっと先の誕生日までに結婚?
できるわけない。そんなの、わかってるんだ。
運ばれてきた焼き鳥を頬張りながら、じゃあどうしたらいい? と自問する。
得意げに結婚報告してきたあの二人を、あっと言わせてやりたい。それにはどうしたらいいんだろう。
「……結婚するしかない」
呟きは喧騒に紛れた。
最初のコメントを投稿しよう!