スピード離婚契約

▼純朴なキスを

　さっきまで俺が飲んでいたシャンパンをなんの躊躇いもなく飲まれてしまい、こっちが戸惑った。
　ドクンと心臓が大きく鳴って、いけないことをしたような気になる。

　間接キスに大騒ぎするような年齢はとっくに過ぎているが、大人になり、そういう軽い行動をすることが無くなった分、逆にドキッとさせられて。

「あら、グラスが空だったわね、失礼」

　そう言って、英子さんが手にしていたボトルを傾ける。
　俺のグラスを空にしたひなたは、英子さんの注いでくれた自分の分も一気に飲み干してしまった。

　ひなたの前の皿には、まだ料理が大分残っている。この状態でそんなに立て続けに飲んでも平気なほど酒に強いのかどうか、正直そこまではわからない。が、不安だ。
　一緒に飲んだのは、例の焼き鳥屋に誘ったあの夜、たった一度きり。
　気持ちよく、皆の迷惑にならない程度の酔い方ならいいのだが。

「おいひなた、そんなに一気に、大丈夫か？」

　声をかけたが、残念ながらもう遅かったようだ。

「大丈夫れす！　これっくらい。恭介さんはカタイんですよぉ。もっと飲んで、ほらぁ」

　ああ、なんてことだ。
　しかもこいつのは絡み酒。早々に撤退させた方が、俺にとっても皆にとっても、多分本人にとってもいいだろう。

　二人で飲んだのはあの夜だけだったから、ひなたの限界値が把握できていないのは失敗だった。いや、ビールでさえあれだったのだ。予測して、もっと早くから注意を促すべきだったのにそこまで気が回らなかったのだから、これは俺の責任だ。

「英子さん、ひなたがだいぶ酔ってしまったようなので、早いですが今日は連れて帰ります」