5221人が本棚に入れています
本棚に追加
「ん〜」
やっとの思いでベッドに降ろした途端、そんな甘い声を漏らす。
無意識だとわかっていても、どこか恨めしく思う自分がいた。
酒の入った金曜の夜だ。ベッドに横たわる無防備な姿を見せられて恨めしく思うのも仕方ない。
課長である前に、男なのだから。
「なにが、ん〜だ、全く」
意識のない人間を床から抱え上げるのは、なかなかに骨が折れた。ソファーから抱え上げたあの時とは勝手が違うように感じて、もっと体を鍛えるべきかなどと反省までしてしまったではないか。
見下ろした寝顔はあどけない。少しの間見つめていれば、口元がニヤリと歪んだ。
何か楽しい夢でも見ているのか。気楽なもんだ。
軽く息を吐いて、その寝顔に顔を近づける。
さっき床に突っ伏した時にどこかぶつけていやしないかと気になって、顔にかかる髪を避けて凝視した。
丸みを帯びた額にも、柔らかそうな頬にも、ちょこんとした鼻にも傷はなく安堵する。
「おやすみ」
小さく呟けば、ん〜と再び呻いて、それからさっきレストランで俺に押し当てた唇をポカッと開けて寝息を立て始めた。
「ふっ」
本当、なんて奴だ。
最初のコメントを投稿しよう!