ガーベラの花束を君に

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 昨日、偶然心春のお母さんに会った。近所に住んでいるのに、すごく久しぶりだった。 「毎年ね、ガーベラの花が供えられているの」 「ガーベラ?」 「あの子の好きだった花よ。しかもね、供えられるのは、亡くなった日の3月7日じゃなくて、3月14日なの。あの子の誕生日。会ったことないんだけど、あの子、お付き合いしていた人いたのね」  心春がバレンタインデーに告白して、2人は付き合い始めた。1ヶ月にも満たない短い交際期間。 「もう6年も経つのに……」 「大丈夫?」 「何があったの?」  心配そうにかけてくれる声が、耳を滑る。私を心配するふりして、良い人のふりをしてるだけじゃない。  心春のことなんて、今日までずっと忘れてたくせに。  冷たいのは、山本くんじゃない。冷たいのはあんた達だ。心春の葬儀で流した涙は、卒業式の涙に洗い流され、今日まで思い出す人もいなかっただろう。  そして、一番酷い人間は私だ。  心春が亡くなって、悲しい気持ちと一緒に生まれた、仄かな期待。  いつか心春を忘れて、私を見てくれる時が来るんじゃないかと、ずっと期待していた。  ここに来る前、心春のお墓に立ち寄った。そこには、ガーベラの花束が供えられていた。 「もうやめよう。もう自分を解放してあげよう」  そう言いたかったのに、6年経っても山本くんは、背中で私を拒んでいた。
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