8人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
甘くて痛い
私たちカップルの朝は、「おはよう」から始まる。そう、普通のカップルと変わらない至って普通の朝。
「ほのちゃん、おはよ」
秋さんの声で、ぱちりと目が開く。片耳から外れたイヤホンを差し直して、寝ぼけた声を出す。あきさんのおはようの言葉は、イチゴミルクの飴みたいに甘い。
「あきさん、おはようございます」
パチパチと瞬きを何回も繰り返せば、ぼんやりとしていた天井がはっきりと見えてくる。スマホの画面に焦点を合わせて時間を確認すれば、7時半。いつもより少し遅めの時間。
ぼんりやりとした目に映った日付と曜日は、私の頭を混乱させる。
「あれ? あきさん今日は休み?」
「俺、今日はお昼から」
「ん? なのにこの時間に起きたの?」
「ほのちゃん、大学でしょ」
くすくすと耳元に聞こえる笑い声。お腹の奥がくすぐられるような、背中が痒くなるような感覚に体を震わせる。
「わたしのため?」
「うん、おはようは言いたかったからさ。大丈夫? 間に合う?」
「ん、だいじょーぶ」
ふわぁっとおっきいあくびをひとつ。
「あきさん、ありがとう」
「いえいえ、じゃあ俺はそろそろ寝るよ」
あきさんの言葉に、一瞬フリーズ。脳みそを無理矢理に動かして、弾き出された答えは……
「もしかして、ずっと起きてたの?」
「バレちゃった」
「寝なよ! 仕事辛くない? 大丈夫?」
「最悪休みでもいっかなぁーって、溜まってるのないし」
「いやいや」
「自営業だからそこらへん楽なの」
最初のコメントを投稿しよう!